楽譜集のID番号の見方(1)

7月最初の水曜日。スウェーデン最大の伝統音楽の集まり、ビングシュー・ステンマの日ですが、1969年より続くこのイベントも今年初めてコロナによりキャンセルとなりました。

さらに残念なことに、スウェーデンを代表する偉大な伝統音楽奏者、ペシュ・ハンスPers Hansが金曜に77歳で亡くなりました。お父さんのPers Erik、祖父のPers Olleと続く伝統音楽の家系で(ソーン金メダル、文化賞受賞歴)、70年代伝統音楽ブームを牽引した1人です。私が初めてスウェーデンに行った時、あまりに伝説的奏者だったので過去の亡くなった人だと思いこんでいまして(白黒写真しか見たことがなかった)。すると、目の前で本人を紹介され…「!!」とびっくりしたのでした。演奏も録音で聞いていたとおりの流麗さで、ダーラナの伝統美を隅々まで感じる演奏だったのを思い出します。時は流れ、次の世代に引き継がれる。分かっていても、悲しいですね。

PERS HANS OLSSON

さて、話を変えて、日本では6月、オンラインイベントが二つありました。
北欧のおうちでピクニック、約4時間半、一気に見てしまいました!
その前夜祭かのように東京北欧セッションがズームで開催。こちらも、ワークショップなど色々なプログラムを組んでいましたね。


さて、伝統曲のセッションを現地でする時、自分とメロディ、装飾、リズムに違いがあると、誰に習ったの?と聞かれます。楽譜もないので教える人が違えば少しずつ違いが生まれ、これが伝統曲の豊かさにも通じます。

では、楽譜の曲はどうでしょう?皆同じように弾くと思いますか?
※ここでいう楽譜は、古い楽譜集で伝わった曲のことです。

そもそも楽譜の曲というのが特殊です。ブログで何度か書いたことがありますが、ここで簡単におさらいを。


—楽譜集についてのおさらい—
口伝の伝統曲は楽譜がありません。今も習う時には使いません。
1900年代に収集/出版された有名なSvenska Låtarスヴェンスカ・ロータル(スウェーデン曲集)という楽譜集がありますが、これは収集、記録をした資料です。「それを見て弾いてね」というものではありません。
また、1600-1800年代、楽譜を書く知識のあった人がnotbok(ノートブック、楽譜集)に曲を書き留めました。当時の流行曲や、作曲者にも触れていない曲がほとんどで、メロディを簡単に書いたもの、いわゆるメモに近いものです。そして、ほとんどが村の伝統音楽と同じくダンス曲です。そうした古い楽譜集は、現代の伝統音楽奏者にとって、「新曲発見のツール」でもある訳です。


そして、先ほどの「楽譜があれば皆同じように弾くのか?」の答えですが、「イエス」でもあり、「ノー」でもあります。(私の個人的な意見)

古い楽譜集から曲を探した人は、ダンスにあうように、弾き安いように、少し変える場合もあります。その曲を人に教える際は、伝統にのっとって楽譜を使いません。そうやってまた、その人のバージョンが広まっていきます。

さて、こうした古い楽譜集のうち、スウェーデンのvisarkivetが管理しているものは、1曲ずつID番号を割り振っています。

以前は、直接行かないと見せてもらえませんでしたが、2000年代に入ってからデジタル保存され、今はネットで見れるようになりました(システム統合などで2019年以前のリンクは古くなり、あちこちのサイトでリンク切れになっているので注意)。

このID番号から見えるスウェーデン伝統音楽の話を書きたいと思います。

Sven Donatの楽譜集
この中の一曲を例に紹介したいと思います。
Sven Donat(1755-1815)は兵士で伍長になったフィドル奏者で、200曲以上ノートブックに書き留めました。

例えばこの1曲。Youtubeでマグヌス・ホルストレムが弾いている曲です。
原曲の譜面がみたいなと思い、ネットで検索しました。folkwikiという自由投稿の楽譜サイトがヒットし、タイトルに「Polska efter Sven Donat (Ma5 42)」とあります。さらに、ノートブックのID番号が複数掲載されていました。そして、「マグヌスの動画参照。ヨハン・ヘディンを通して有名」という一言が添えられています。ヨハン・ヘディンは、バロック音楽(バイオリン)にも精通したニッケルハルパ奏者です。

掲載されていた楽譜集のIDを調べてみました。どれも違うノートブックに書き留められた同じ曲、ということです。その時代、人気のあった曲はこうやっていくつものノートブックに書かれます。
Ma5:042, Sven Donat
Sö12:064, Malcolm Åhlander
Sm2:007, Lars Sundell “Lasse i Svarven”
Ma10:050 nr394,  Sam Wåhlberg
Ma7:025 nr.62, Andreas Dahlgren

それぞれの楽譜をネットで見ると、4つは、key:Cm(動画はGm)、メロディラインの印象も動画とは異なります。唯一、Lars Sundell(1874-1923)はGmで、メロディが動画に似ています(違う箇所もあります)。

ノートブックを書いたうちの3人、Sven Donat(1755-1815)、Sam Wåhlberg(1700年代)、Andreas Dahlgren(1758-1813)は同世代。だからこの3人の譜面はそっくりなのかも。

感慨深いのは、当時の楽譜をこんなに簡単に見比べることができる時代になったことですね。


Ma、M、MMD、地名、SvL」について
Spelmäns böcker(フィドラーの本)の分類には3つあります。
Mはmelodibokメロディブック、aはavskrift(原書)からの写し、MMDは旧・音楽歴史博物館(現・パフォーミングアーツミュージアム)が所有していたダンスブックの曲集です。

地方名の略語、SvL
それ以外では地方名の略語が24種類あります。は、Södermanland、DrはDalarnaなど。Svenska Låtarの楽譜集はこの膨大なコレクションをもとに出版されました。この楽譜集は、SvLという略語を使います。
例:SvL Skåne nr80 → ”Svenska Låtarの、スコーネ地方の巻、80番の曲”

CDの曲解説の中でも、こうしたID番号が掲載されていることが多いです。

アルファベットの後につづく数字
楽譜集ごとに割り当てた番号です。Mには1-189まで(189冊)あります。
コロンの後の3桁の数字はスキャンした写真の番号です。025は25番目の曲ではなく、25ページ目でもなく、スキャナー画像の42枚目です。
nr62のようにさらに番号が書いてある場合は、原書に書かれている曲番のことです。

検索はこちら(Visarkivetの検索サイト)

ID番号から探す場合

フリーテキストや検索条件を入力して探す場合

次回は、誰がなぜ、こうした収集活動をしたのか、続きを書きたいと思います。


お知らせ

-数年前に書いた、浜松の楽器博物館の図録に寄せた個人的なエッセイ、とうとう出版となったようです。様々な楽器の奏者が書いたそれぞれのエッセイがおさめられています。

-3月にキャンセルとなった、アトリエ・ポルッカでのハーディングフェーレ&ニッケルハルパ、樫原聡子さんとのデュオライブ、秋開催の可能性を探っているところです。興味のある方、もう少々お待ちください。

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